「ゲームは時間の無駄」への反論が、ついに科学的に完成した。

科学が語るゲームの価値

ゲームをやっていても「楽しくない」「虚しい」と感じる人がいる。

私には、それがずっと不思議でした。

ゲームほど濃密な体験を与えてくれるエンタメを、私は他に知りません。喜び、悔しさ、達成感、没入感——それを「時間の無駄」と言い切れる感覚が、正直まったくわからなかった。

でも、「ゲームは良いものだ」と主張するには、感覚だけでは弱かった。証拠が要る。科学が要る。その証拠が、2024年についに出ました。

①問題:「相関」はあった。でも「因果」が証明できなかった。

「ゲームをよくする人は幸福感が高い」というデータは、以前からありました。でも、このデータだけでは「ゲームが幸福感を高めた」とは言えません。

「もともと幸福な人がゲームをしているだけでは?」

そう言われると返す言葉がない。ゲームが原因なのか、幸福感が先なのか、区別できなかったのです。因果関係を証明するには、「ゲームをする人としない人をランダムに分ける実験」が必要でした。でも現実には、そんな実験は不可能でした。

②チャンス:コロナ禍の品薄が、ランダムな実験を生み出した。

2020年から2022年。Nintendo SwitchとPlayStation 5が品薄になり、各地の量販店で抽選販売が始まりました。

私自身、PS5を求めてヨドバシカメラに開店前から並んだことがあります。販売の予告があったわけではない。直近の傾向から「今日あたり販売があるかもしれない」という読みで向かったら、たまたまその日が店頭販売の日でした。運よく手に入れられたあの日のことを、今でもよく覚えています。

ここで重要なのが、抽選の結果はほぼランダムだという点です。「幸福な人が当たりやすい」なんてことはありません。お金持ちも貧乏人も、ゲーマーも非ゲーマーも、同じ確率で当たったり外れたりする。

つまり、抽選は「ゲームをする人としない人を、偶然ランダムに分けた」のと同じ状況を生み出したのです。研究者が何十年も欲しがっていた、あの実験環境が。

ゲーム機の抽選販売に並ぶ人々

③実施:当選者と落選者の幸福感を、97,602人で比べた。

大阪大学の研究チームはこのチャンスに気づき、Switch・PS5の抽選参加者を含む97,602人を調査しました。

当選してゲームをプレイする時間が増えたグループと、落選してプレイ時間が変わらなかったグループ。この2グループの間に、幸福感の差は生まれたのか。

④結果:当選者の幸福感は、確かに上がっていた。

Switch抽選の当選者は、心理的なストレスが有意に減少しました。PS5抽選の当選者はストレスが減るだけでなく、生活満足度も上がりました。ゲーム時間は1日0.5〜0.8時間増えた。それだけで、です。

研究者たちはこの効果量を「運動や薬による介入と同程度」と表現しています。

ゲームをして幸せそうな女の子

⑤結論:だから「ゲームは幸福感を高める」と、因果的に言える。

当選(プレイ時間が増えた)→幸福感が上がった。落選(プレイ時間は変わらなかった)→幸福感は変わらなかった。抽選はランダムだから、この差はゲームが生み出したものと言えます。

一点だけ補足しておきます。「当選した喜び自体で幸福感が上がったのでは?」という疑問は自然な反論です。研究者たちもこれを意識していて、「当選したがあまりゲームをしなかった人」と「当選してよく遊んだ人」を分けて分析しています。幸福感が上がったのはよく遊んだ人だけでした。つまり、当選の喜びではなくゲームのプレイそのものが効いているという根拠になっています。

「ゲームは時間の無駄」への反論が、ついに完成した。
ゲームが幸福感を高めることを、日本人97,602人のデータが
強く示したのだ。

正直に言えば、「やっぱりそうだよな」という気持ちが先に来ました。ゲームが良いものだということは、ずっとわかっていた。でも今回、科学がようやくそれを証明してくれた。

ただし、一つだけ条件があります。1日3時間を超えると、効果が薄れていきます。適度にやる。それが大切なのも、本当のようです。

論文の詳細に興味がある方は、このまま読み進めてください。

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目次

  1. 「因果関係の証明」がなぜ難しいのか
  2. コロナ禍が生んだ「自然実験」という手法
  3. 97,602人のデータが示したもの
  4. SwitchとPS5、どちらが幸せになれる?
  5. 1日3時間ルールの根拠
  6. この研究が持つ意味
原題
“Causal effect of video gaming on mental well-being in Japan 2020–2022”
日本語訳
「日本におけるビデオゲームが精神的幸福に与える因果的影響 2020–2022」
著者
江上由里子(えがみ ゆりこ)ほか(大阪大学)
発表
2024年、Nature Human Behaviour

① 「因果関係の証明」がなぜ難しいのか

研究の世界では「相関関係」と「因果関係」を厳密に区別します。「ゲームをよくする人は幸福感が高い」は相関関係です。2つのことが同時に起きているとわかるだけで、どちらが原因かはわかりません。

因果関係を証明するには、「ゲームをする人としない人をランダムに割り当てる実験」が理想です。でも現実には不可能でした。だから長年、ゲームと幸福感の因果関係は「証明できない問い」のままでした。

② 自然実験という手法

研究者が意図して作るのではなく、現実の出来事が偶然に「ランダムな割り当て」を生み出すことがあります。これを自然実験と呼びます。

コロナ禍のゲーム機品薄 → 抽選販売 → ランダムな当落、という連鎖がまさにそれでした。当選グループはゲームが増え、落選グループは変わらず。この2グループの幸福感の変化を比べることで、ゲームの因果効果が測れました。

この研究では操作変数法・傾向スコアマッチング・因果森(機械学習アルゴリズム)など、複数の統計手法で結果を検証しています。いずれも同じ結論に達しました。

③ 97,602人のデータが示したもの

調査対象は97,602名(年齢10〜69歳)。うち抽選に参加したのはSwitch 1,773名、PS5 6,419名の計8,192名です。心理的苦痛の指標にはK6スケール(6項目の質問票)、生活満足度は独自の尺度を使用しました。

  • Switch当選:心理的苦痛が0.2標準偏差改善
  • PS5当選:心理的苦痛が0.1標準偏差改善、生活満足度が0.23標準偏差向上
  • ゲーム時間の増加:1日あたり0.5〜0.8時間

「標準偏差」という言葉は難しく聞こえますが、著者らは「運動介入や薬物療法と比較可能な効果量」と述べています。日常的な健康介入と同レベルの効果が、ゲームにあることが示されました。

④ SwitchとPS5、どちらが幸せになれる?

機械学習の因果森アルゴリズムを使って、「誰にどちらのゲーム機が効くか」まで分析しています。

Switchは、これまであまりゲームをやったことのない人(非ゲーマー)への効果が大きい傾向がありました。一方、PS5は子どものいない男性への効果が大きく、子ども・女性・若年層への効果はやや小さめという結果でした。

なぜこの差が生まれるのかはまだ解明されていませんが、「機種によって恩恵を受けやすい人が違う」という事実は、今後の研究の重要な出発点になりそうです。

⑤ 1日3時間ルールの根拠

プレイ時間と幸福感の関係を詳しく分析したところ、1日3時間を超えたあたりから効果の伸びが鈍くなり、それ以上では改善が見られなくなりました。「やりすぎが逆効果になる」とまでは言い切れませんが、3時間が一つの目安になりそうです。

⑥ この研究が持つ意味

著者たちは論文の中でこう述べています。「ゲームを単純に規制・制限するのではなく、誰にどのゲームがどれだけ有効かを個別に考えるべきだ」と。

97,602人というサンプルサイズ、自然実験という手法、Nature Human Behaviourという掲載誌の権威——すべてが揃った、ゲーム研究史上でも屈指の論文です。

ゲームを楽しめていない人がいることが、私にはずっともったいなく感じていました。この研究が、そういう人たちの背中を少し押してくれるなら嬉しいと思います。

「ゲームは時間の無駄」という言葉に、
ようやく科学的な反論ができるようになった。

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