ゲームをやろうと思って、結局YouTubeを見た夜。翌朝の活力に、差が出ていました。

科学が語るゲームの価値

帰ってきて、ソファに座る。

「今日こそあのゲームを進めよう」と思っていたのに、気づいたらスマホを手に取って、YouTubeを流しています。

別に何かを見たかったわけじゃない。ただ、なんとなく。

そのまま1時間、2時間が過ぎ、ゲームはついに起動しないまま夜が終わります。「今日もできなかった」という、ぼんやりとした後悔だけが残って。

このパターン、心当たりがある方も多いのではないでしょうか。

だからこそ、この研究を読んでほしいと思いました。

2024年、オランダのエラスムス大学が発表した調査があります。65人の会社員に、退勤後から翌朝にかけての行動を毎日記録してもらった研究です。その結果として確認されたのは、こういうことでした。

仕事終わりにゲームをプレイした夜は、翌朝の活力(vigor)が高くなる傾向が確認された。この効果は、「仕事のことを完全に忘れる体験」と「何かをやり遂げた達成感」という、2つのルートを通じて生まれていた。

「なんとなくYouTubeを流した夜」と「ゲームをやった夜」では、翌朝の状態が違う。502日分のデータが、そう示していました。

なぜゲームが翌朝の活力につながるのか

理由は2つあります。どちらも、ゲームが特別に得意なことです。

① 仕事のことを、完全に忘れる

ゲームをやっている最中、仕事のことを考えますか?

おそらく、ほとんど考えません。ボスの行動パターンを読んでいるとき、物語の選択肢を選んでいるとき、脳はゲームの中の問題を解くことに集中しています。

心理学では、これを「心理的距離(Psychological Detachment)」と呼びます。仕事から精神的に切り離された状態です。そしてこの「完全に忘れる体験」が、翌朝の回復に直結することが確認されました。

ストーリーや冒険が中心のゲームでは、この体験が生まれやすいと思います。別の世界に入り込んでいる感覚、非日常を楽しんでいる感覚。それはまさに、「仕事の記憶から脳が解放されている」状態です。

② 何かをやり遂げた、という感覚

ゲームには、必ず達成があります。ボスを倒した。新しいエリアに辿り着いた。長かったサブクエストが終わった。

この「できた」という感覚を、研究では「熟達体験(Mastery Experience)」と呼びます。仕事の成果が見えにくい日でも、ゲームの中では達成感を確かに得られる。それがエネルギーを補填し、翌朝の活力につながる、と今回の研究は説明しています。

「なんとなくYouTubeを見た夜」と「ゲームをクリアした夜」では、翌朝の状態が変わる。どちらが「ちゃんと休んだ夜」なのか、科学の答えは直感と少し違うかもしれません。
今日の結論。
これだけ覚えておいてください。
  1. 仕事終わりにゲームをやる選択は、「サボり」でも「現実逃避」でもありません。翌朝の活力につながる、科学的に意味のある休み方です。
  2. YouTubeをなんとなく流すくらいなら、ゲームを起動してください。世界観に没入できるRPGやアドベンチャー、クリアの達成感があるアクション系が特に向いています。別の世界に入り込む体験と、やり遂げた感覚が、翌朝のスタートを変えます。
  3. 「今夜は2時間まで」と決めて、区切りよく終わらせてください。睡眠を削るゲームだけは逆効果です。それ以外は、やって正解です。

論文の詳細に興味がある方は、このまま読み進めてください。

📄 論文を深掘りする

① 研究の概要

今回の論文は、オランダ・エラスムス大学のコジャック、ゴルギエフスキー、バッカーの3名が2024年に発表したものです。

研究の手法は「日記調査法(Diary Study)」と呼ばれるものです。会社員65名が、最低5営業日にわたって毎朝・毎晩に短いアンケートに回答し続けました。合計で502件分のデータが積み重なりました。

「昨夜、ゲームを何時間やりましたか」「今朝、仕事への活力を感じますか」という記録を積み重ねることで、「夜のゲーム」と「翌朝の状態」の関係を明らかにしようとした研究です。

② 回復に必要な4つの体験

この研究の背景には、ゾンタークとフリッツ(2007年)が提唱した「4つの回復体験」というフレームワークがあります。

仕事のストレスから本当に回復するために必要な体験として、以下の4つが挙げられています。

  • 心理的距離(Detachment):仕事のことを頭から切り離す
  • リラックス(Relaxation):心身の緊張をほぐす
  • 熟達(Mastery):何かを達成・習得する体験
  • コントロール(Control):自分で活動を選び、決める自由

ゲームは、この4つをまとめて満たせる数少ない活動のひとつです。没入することで仕事を忘れ(距離)、ゲームの世界でリラックスし(リラックス)、ミッションをクリアし(熟達)、何をやるかを自分で決められる(コントロール)。

③ 研究が確認した2つのルート

ルート1:心理的距離を通じたルート
夜のゲームプレイ → 仕事のことを忘れる体験 → 翌朝の回復感が高まる

ルート2:熟達体験を通じたルート
夜のゲームプレイ → 達成感・やり遂げた感覚 → 翌朝の活力(vigor)が高まる

ここでいう「活力(vigor)」は、単に「疲れが取れた」感覚を超えたものです。翌朝に積極的に仕事へ向かえるエネルギーのことを指しています。

④ ゲームのジャンルは問わない

今回の研究は、特定のゲームジャンルに絞った調査ではありませんでした。アクション系でも、RPGでも、ストーリー重視のアドベンチャーでも、没入できるゲームであれば心理的距離が生まれるという解釈が成り立ちます。

「冒険の世界に入り込んでいる感覚」「ストーリーの続きが気になって止まらない感覚」。これらはすべて、仕事の記憶から脳が解放されているサインです。

⑤ 「熱中の仕方」によって効果が変わる

ひとつ、注意点があります。研究では、ゲームへの向き合い方によって回復効果に差が出ることも確認されました。

  • 調和的情熱(自分でコントロールできる趣味としてのゲーム)→ 回復効果が高まる
  • 強迫的情熱(やめたくてもやめられないゲーム)→ 回復効果が弱まる可能性がある

「今夜は2時間やろう」と決めてプレイし、区切りよく終えられる。そういうゲームとの付き合い方が、回復効果を最大にします。反対に、睡眠を削ってまでやり続けてしまう状態では、翌日に疲労が残ることになります。

「ゲームは良い」「ゲームは悪い」という二項対立ではなく、どう向き合うかが重要というのが、この研究の正直な結論です。

⑥ 研究の限界について

  • 対象者は65名と比較的少人数
  • ゲームの時間の長さ自体は、今回の分析の主軸ではない
  • 自己申告によるデータのため、個人の感覚のズレが含まれる可能性

大規模な追試が積み重なることで、より確かな知見になっていく研究です。ただ、「仕事終わりのゲームには意味がある可能性がある」というエビデンスとして、現時点でも十分に読む価値があります。

原題
“Recovery from work by playing video games”
日本語訳
「ゲームプレイによる仕事からの回復」
著者
コジャック、ゴルギエフスキー、バッカー(エラスムス大学ロッテルダム)
発表
2024年、Applied Psychology(Vol.73 Issue 3, pp.1331–1360)

まとめ

「仕事終わりにゲームをした人は、翌朝の活力が高かった」

その理由は、ゲームが「仕事を完全に忘れる体験」と「小さな達成感」を同時に与えてくれるからです。どちらも、YouTubeをなんとなく流し見するだけでは得にくいものです。

今夜、コントローラーを手に取るか取らないか迷ったとき。この研究を、少しだけ思い出してもらえたら、と思います。

ゲームをやろうと思って、結局YouTubeを見て終わった夜。翌朝の活力は、別の選択をしていたら違ったかもしれません。

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