「ゲームをするとイライラするだけだから、やらない」
以前、知人にそう言われたことがあります。
私には正直、あまりピンとこない感覚でした。ゲームをしてイライラすることはもちろんあります。でもそれを上回る楽しさがあるから続けている。
ただ、その人の気持ちも否定はできない。なぜゲームをするとイライラするのか。科学に聞いてみました。
イライラの原因は「ゲームそのもの」ではなく、
「スキルと難易度のミスマッチ」だった。
体はちゃんと回復していた
ゲームをプレイすると、ストレスホルモン(コルチゾール)と心拍数が低下する——これは複数の研究で確認されています。
特に驚くのは、「暴力的なゲームをプレイしたグループ」でも同じ結果が出ていた点です。主観的には「イライラした」と感じていても、体はしっかり回復していました。
イーストカロライナ大学の研究では、カジュアルなパズルゲームをたった20分プレイするだけで、コルチゾールが54%低下することも確認されています。
「なんか疲れた気がする」と感じていても、体は回復しています。主観と身体は必ずしも一致しません。
では、なぜイライラするのか
体が回復しているのに、なぜイライラするのか。
ロチェスター大学の研究がこの問いに答えています。ゲームプレイ中のイライラや攻撃的な気持ちの原因は、ゲームの暴力的な内容ではなく、「うまくできない」という有能感の欠如だった、というのです。
心理学にはフロー理論という考え方があります。人が最も没入し、楽しめる「フロー状態」は、自分のスキルと難易度がちょうど釣り合っているときに生まれます。
- スキル < 難易度 → フラストレーション・イライラ
- スキル = 難易度 → フロー(没入・楽しい)
- スキル > 難易度 → 退屈

初心者がゲームをするとき、多くの場合は「スキル < 難易度」の状態です。コントローラーの操作自体に認知のリソースを使い切ってしまうため、ゲームを楽しむ余裕がない。それがイライラの正体です。
対戦ゲームがイライラしやすい理由
対戦ゲームには構造的な問題があります。必ず誰かが負ける。ランクマッチなどでは同格以上の相手とマッチングするため、常に「スキル = 難易度」か「スキル < 難易度」の綱渡りです。有能感が損なわれる体験が、設計上避けられません。
私自身が対戦ゲームをほとんどやらない理由の一つも、振り返ってみればここにあるかもしれません。
イライラしにくいゲームの選び方

ゲームを敬遠している人、あるいは過去に嫌な思いをした人に勧めるとしたら、条件は3つだと思っています。
① 一人で完結する(ソロプレイ)
他人に有能感を壊されない。自分のペースで進められます。
② 物語性がある
「次どうなるんだろう」という引力が、難しい場面があっても続けるモチベーションになります。
③ 対戦ではない
勝ち負けというプレッシャーがない分、純粋にゲームを楽しめます。
最近発売されたゲームの中でこの条件を満たす一本として、個人的にドラゴンクエストⅦ リイマジンドをおすすめします。ゲーマー目線では難易度が低めですが、だからこそ非ゲーマーに向いています。テンポよく物語が進み、「物語を楽しむ」という意味では、ゲームを普段やらない人にこそ手に取ってほしい一本です。
あつまれどうぶつの森も候補に挙がりますが、正直に言うと物語性が薄いため、自分で目的を作れる人向けです。ゲームに慣れていない人が遊ぶと、やることがなくなって終わってしまうことがあります。
・イライラの原因はゲームそのものではなく、スキルと難易度のミスマッチ
・対戦系はイライラしやすい構造を持っている
・非ゲーマーには「一人・物語あり・対戦なし」から始めるのがおすすめ
論文の詳細に興味がある方は、このまま読み進めてください。
論文を深掘りする
この記事では2本の研究とフロー理論を参照しています。
- ① ロチェスター大学の研究:イライラの原因は暴力性ではなかった
- ② イーストカロライナ大学の研究:コルチゾール54%低下
- ③ フロー理論:スキルと難易度のバランスという視点
① ロチェスター大学の研究:イライラの原因は暴力性ではなかった
「ゲームは暴力的だから攻撃的になる」——この主張は長年議論されてきました。しかしロチェスター大学の研究チームは、その前提に疑問を持ち実験を重ねました。
結論は明快でした。プレイヤーがイライラしたり攻撃的な気持ちになったりする原因は、ゲームの暴力的な内容ではなく、「うまくできない」という有能感の欠如でした。
暴力描写が一切ないパズルゲームでも、難易度が高くて達成感を得られない設計にするとプレイヤーは攻撃的な気持ちになりました。逆に暴力的なゲームでも、難易度を適切に設定するとその感情は生まれませんでした。
「ゲームを禁止すれば子どもが穏やかになる」という発想は、原因を取り違えています。問題はゲームの内容ではなく、難易度設計とプレイヤーのスキルのズレにあります。
② イーストカロライナ大学の研究:コルチゾール54%低下
イーストカロライナ大学(ECU)の研究では、カジュアルなパズルゲームを20分プレイするだけで、ストレスホルモン(コルチゾール)が54%低下することが確認されました。
「カジュアルゲーム」とは、ルールがシンプルで短時間で遊べるゲームのことです。特別な知識もスキルも必要なく、誰でも始められます。
特筆すべきは、参加者の気分スコアも改善していた点です。体の数値(コルチゾール)と主観的な感覚(気分)の両面で、ゲームがポジティブな効果をもたらすことが示されました。
「ゲームをしたら疲れた」という感覚は、体が疲れているのではなく、集中によって脳が活性化した証拠かもしれません。
③ フロー理論:スキルと難易度のバランスという視点
心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱したフロー理論は、人が「最高に没入した状態」になる条件を説明します。
フロー状態に入るには、スキルと難易度がほぼ同じ水準であることが必要です。スキルが難易度を大きく下回ると不安・フラストレーションが生まれ、大きく上回ると退屈になります。
長くゲームで遊んでいると、初めてプレイする作品でもなんとなく勝手がわかります。コントローラーの操作を「意識しなくて済む」分だけ、脳のリソースがゲームの楽しさに向かいます。これがベテランゲーマーが初心者より楽しみやすい理由の一つです。
逆に初心者は、コントローラーの操作自体に認知リソースを使い切ってしまう。ゲームの内容を楽しむ余裕がない状態でプレイすることになり、フラストレーションが高まります。
「ゲームは難しくてイライラした」という体験は、ゲームが悪いのではなく、その人のスキルに合った入口が用意されていなかっただけかもしれません。


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