ゲームをよくやる人はマルチタスクが得意だった。「なぜか」は、まだ謎のままだ。

科学が語るゲームの価値

モンスターハンターをやったことがある人なら、きっとわかるはずです。

狩りの最中、頭の中はとにかく忙しい。モンスターの次の行動を読みながら、スタミナゲージを確認して、アイテムの残量を把握して、弱点部位に次の一撃を届ける。これを「マルチタスク」と呼ぶとすれば、ゲーム中はずっとマルチタスクをしていることになります。

ただ、自分がマルチタスクが得意かと聞かれると、正直なところあまりそう感じません。どちらかといえば、優先順位をつけて一つひとつ片付けていくほうが向いている気がする。

でも、こんなデータが出ました。

ゲームをよくやる人は、マルチタスクが得意だった

2025年10月、スイスのチューリヒ大学とドイツのミュンヘン連邦軍大学の研究チームが、Scientific Reportsという学術誌に論文を発表しました。

研究では59人の参加者に、「MATB(マルチアトリビュート・タスク・バッテリー)」と呼ばれるテストを受けてもらいました。これはフライトシミュレーターのような仕組みで、4つの作業を同時にこなすことが求められます。

  • ジョイスティックで動くカーソルを画面中央に保つ
  • 計器の異常に気づいてボタンを押す
  • 無線の呼びかけに応じて周波数を合わせる
  • 2つのタンクの残量を適切に維持する

この4つを、90秒間ずっと並行してこなさなければなりません。モンハンの狩り中とよく似た状況です。

結果はこうでした。ゲームをよくやる人ほど、このテストの成績が有意に高かった。

ゲーム経験はマルチタスク成績を予測する。
これは「相関」ではなく、統計的に有意な関係として確認された。

「なぜ得意なのか」は、まだわかっていない

ここで面白い話になります。

「ゲームで頭が鍛えられるから得意なのでは?」と誰もが思うでしょう。研究チームも最初はそう仮説を立てていました。ゲームをよくやる人は認知容量(頭の処理能力)が高く、それがマルチタスクの成績にもつながる──という筋書きです。

ところが、その仮説は否定されました。

認知容量の高さは、ゲーム経験とマルチタスク成績の関係を説明しなかったのです。つまり「頭がいいからゲーマーはマルチタスクが得意」ではない、ということ。

では、何が説明するのか。論文はひとつの可能性を示しています。ゲームを通じて「どの作業にいつ注意を向けるか」という戦略的な注意の切り替えが身についているのではないか、と。ただし、これはあくまで推測です。明確な答えはまだ出ていません。

「一つずつ攻略する」のは、ゲームで覚えた戦略かもしれない

ここで、最初の話に戻ります。

私は「マルチタスクより、優先順位をつけて一つずつ」が自分に合っていると感じています。でも今回の論文を読んで、少し考え直しました。

本当の意味で「複数を完全に同時に」やっている人間はいません。脳は結局、ある瞬間には一つのことに注意を向けています。マルチタスクが得意な人というのは、超高速で「どれを優先するか」を切り替えている人のことかもしれません。

そう考えると、ゲームをやってきた人が「一つずつ攻略」を得意とするのは、むしろ当然かもしれない。狩りの最中に「いま何をすべきか」を瞬時に判断し続けた経験が、そのまま現実の複数タスク処理に活きているとしたら──「マルチタスクが得意」と「一つずつ攻略が得意」は、実は同じことを言っているのかもしれません。

ゲーマーのマルチタスク力は「頭がいいから」ではない。
「何を優先すべきか」を瞬時に判断してきた、経験の積み重ねかもしれない。

論文の詳細に興味がある方は、このまま読み進めてください。

📄 論文を深掘りする

① どんな研究か

この研究、実はちょっと変わった背景があります。

実験が行われたのは「ミュンヘン連邦軍大学」というドイツの軍の大学です。そのため参加者59名(18〜29歳・男性45名・女性14名)のほとんどが、軍人や軍関係者でした。「なぜ軍の大学で?」と思うかもしれませんが、後で紹介するテストがもともとパイロット訓練用に開発されたもので、そのノウハウが使いやすかったためです。

研究したのはチューリヒ大学(スイス)の神経心理学者を中心とした3名のチーム。彼らが答えようとした問いは2つです。「ゲームをよくやる人はマルチタスクが得意か?」と、「もし得意なら、なぜか?」。前者には「YES」という答えが出ました。後者は「まだわからない」という結果になりました。

② MATBとはどんなテストか

「MATB」という名前は難しそうですが、やっていることはシンプルです。4種類の作業を90秒間、同時にこなし続けるだけです。

  • カーソルを中央に戻す:画面上を勝手に動き回るカーソルを、ジョイスティックを使って中央に保ち続ける
  • 計器を直す:計器の針が「正常範囲」からずれたら、すぐにボタンで修正する
  • 無線に応答する:無線から自分のコールサインが聞こえたら、素早く正しい周波数に合わせる
  • タンクの残量を管理する:2つのタンクの水位を、規定の範囲内に保つ

モンハンに例えるなら、「体力ゲージを見ながら、モンスターの次の動きを読みながら、スタミナを管理しながら、弱点部位を狙い続ける」のに近いイメージです。

このテストをゲーム経験の多い人と少ない人に受けてもらい、成績を比較しました。

③ 結果:ゲームをやる人のほうが、ミスが少なかった

結果は明確でした。ゲーム経験が多い人ほど、MATBの成績が有意に高かったのです。

論文の統計値では「B = −0.52」という数字が出ています。これは「ゲーム経験が増えるほど、テストのエラー率が下がる(=成績が上がる)」という関係を表しています。信頼区間も[−0.92, −0.15]でゼロをまたいでいないため、「たまたまそうなっただけ」ではなく、再現性のある関係だと判断できます。

平たく言えば──ゲームをよくやっている人ほど、複数の作業を同時にこなすテストで、ミスが少なかった。

④ 「頭がいいから」ではなかった

ここが一番面白い部分です。

研究チームはもともと「ゲーマーは頭の処理能力(認知容量)が高いから、マルチタスクも得意なのでは?」と考えていました。エンジンが大きい車はどんな道でも速く走れる、そういうイメージです。

ところが、データを分析してみると、その仮説は成り立ちませんでした。ゲーム経験とマルチタスク成績の間には確かに関係があるのに、認知容量の高さはその理由を説明しなかったのです。

「エンジンの大きさ」ではなく、「道の走り方を知っているかどうか」の問題だったのかもしれません。

論文は「おそらく、ゲームを通じて身についた注意の切り替え方──どのタスクをいつやるか、という判断の速さと正確さ──が関係しているのではないか」と示唆しています。ただし、これはまだ推測の段階です。「なぜか」の答えは、次の研究者たちに委ねられています。

⑤ この研究で「わからなかったこと」

著者たち自身が論文の中で正直に認めている「弱点」を紹介します。

人数が少なすぎた。59名では仮説を完全に検証するには不十分です。研究チームの試算では、今回やりたかった分析を確実にやり切るには、最大817名が必要でした。

参加者が偏っていた。軍関係者が多かったため、「ゲームをよくやる一般の人」とはやや性質が異なる集団かもしれません。この結果がそのまま私たちに当てはまるかどうかは、慎重に見る必要があります。

女性が少なかった。男性45名に対して女性14名と、バランスに偏りがあります。

「なぜか」はわからなかった。もっとも重要な問い──「どういう仕組みでゲーマーがマルチタスクに強くなるのか」──には、この研究では答えが出ませんでした。

これらは「研究が信用できない」という意味ではありません。「ここまではわかった、ここからは次の研究で」という、科学の正直な進め方です。

※ 本記事では論文1本を深掘りしています。今回は「なぜ得意なのかが未解明」という論文自体の問いを丁寧に追うことに集中するため、比較論文は取り上げていません。

原題
“Habitual video gaming predicts multitasking performance while the role of cognitive capacity remains inconclusive”
日本語訳
「習慣的なゲームプレイはマルチタスク成績を予測するが、認知容量の役割は未確定のままである」
著者
ヤニク・ヒラ、ソフィー=マリー・シュタッシュ、ヴォルフガング・マック(チューリヒ大学・ミュンヘン連邦軍大学)
発表
2025年10月、Scientific Reports(Nature系列)

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