「ゲームばかりして」と心配な親へ。成績につながるゲームは、ちゃんとあります。

科学が語るゲームの価値

「ゲームばかりして、成績は大丈夫?」

学校から帰ってきた子供が、まっすぐゲーム機に向かう。宿題は後回し。声をかけても「あとちょっと」。

そんな毎日を見ていると、心配になりますよね。「このままで成績は大丈夫なんだろうか」と。

その心配に、まっすぐ答えてくれる研究があります。カナダの研究チームが、高校生1,492人を4年間追いかけ続けた調査です。結論から言います。

頭を使うゲーム(RPGやストラテジー)でよく遊ぶ子は、「考える力」が育ち、その結果、学校の成績も上がっていた。

ゲームが直接成績を上げたのではありません。ゲームで育った「考える力」が橋になって、成績につながっていました。順番にすると、こうなります。

考えるゲームで遊ぶ → 考える力が育つ → 成績が上がる

ただし、「どんなゲームでもいい」わけではありません

ここが、この研究のいちばん大事なところです。

効果があったのは、ロールプレイングゲーム(RPG)やストラテジーゲームのような、じっくり考えるゲームだけでした。格闘・レース・アクションのような、反射神経で遊ぶスピード勝負のゲームでは、この効果は確認されませんでした。

「ゲームは子供に良い」でも「ゲームは子供に悪い」でもなく、「ジャンルによって育つ力が違う」。これがこの研究の答えです。

私がRPGから学んだこと

私自身、子供の頃からRPGで育ってきました。だからこの研究結果には、心当たりしかありません。

RPGには、必ず「強敵」が出てきます。最初は手も足も出ずに負けます。でも、負けるたびにわかってくることがあるんです。あの敵は3ターンごとに大技を使ってくる。炎の攻撃がやたら痛い。なら、氷の魔法が弱点かもしれない。大技の前のターンは全員防御だ。

負けて、観察して、対策を立てて、また挑む。そうやって勝てたときの「自分の頭で攻略した」という手応えは、ただレベルを上げて殴り勝つのとはまったく違うものでした。

そしてこれは、勉強で難しい問題にぶつかったときの頭の使い方と、まったく同じです。わからない。どこがわからないのかを観察する。やり方を変えて、もう一度試す。

失敗は、最速の攻略法だ

私には、ゲームに限らず大事にしている考え方があります。

致命傷にならない失敗を、最速で繰り返すこと。それが、物事をいちばん速く前に進める方法だと考えています。

日本では、失敗を恐れて最初の一歩を踏み出せない人が多すぎると感じます。大人も、子供もです。でも冷静に考えてみてください。現実の世界に、ゲームオーバーになるほどの失敗なんて、そうそうありません。テストで悪い点を取っても、発表で言葉に詰まっても、人生は終わりません。むしろ「やってみて、ダメで、直す」を繰り返した人から先に進んでいきます。

RPGの強敵戦は、その練習として最高の教材です。何度負けてもやり直せる世界で、「失敗から情報を取り出して、次の手を考える」経験を、子供は何十回も積んでいるのですから。

ゲームは、負けても本当には終わらない世界で、「挑戦と失敗の練習」をさせてくれる。

論文の詳細に興味がある方は、このまま読み進めてください。

📄 論文を深掘りする

① どんな研究だったのか

この研究を行ったのは、カナダ・ブロック大学のポール・アダチとティーナ・ウィロビー。2013年に学術誌「Journal of Youth and Adolescence」に掲載されました。

対象はカナダ・オンタリオ州の高校生1,492人(男女ほぼ半々)。高校1年生から4年生まで(カナダの高校は4年制です)、毎年アンケートに答えてもらいました。聞いたのは主に3つです。

  • どんなジャンルのゲームを、どれくらい遊んでいるか
  • 困った問題にぶつかったとき、どう解決しているか(「いくつかの解決方法を考えてから選ぶ」など5つの質問)
  • 学校の成績はどれくらいか

ポイントは、これが「縦断研究」、つまり同じ人たちを長期間追いかける研究だということです。1回きりのアンケートでは「ゲーム好きの子はたまたま成績も良かっただけでは?」という疑問に答えられません。4年間の変化を追うことで、「先にストラテジーゲームをよく遊んでいた子が、後から問題解決力を伸ばしていった」という時間の前後関係まで確認できるのです。

② 「頭を使うゲーム」と「反射神経のゲーム」

研究チームは、ゲームを大きく2つに分けて聞きました。

  • ストラテジー系:ロールプレイングゲーム、ストラテジーゲーム(例:スタークラフトのような戦略ゲーム)
  • ファストペース系:格闘、アクション、レーシングゲーム

境界線は「じっくり考えて計画を立てる必要があるかどうか」です。RPGで強敵に勝つには、敵の行動を観察し、弱点を探り、装備や作戦を組み直す必要があります。一方、ファストペース系で問われるのは主に反応の速さと操作の正確さです。

誤解のないように言うと、ファストペース系のゲームが「悪い」という結果ではありません。別の研究では、アクションゲームが注意力や視覚処理を鍛えるという報告もあります。あくまで「問題解決力→成績」というルートが確認されたのはストラテジー系だけだった、という話です。

③ 成績が上がる「ルート」が見つかった

結果を正確に言うと、こうなります。

  1. ストラテジーゲームをよく遊ぶ子ほど、年々「問題解決力」が高くなっていった
  2. 問題解決力が高くなった子ほど、学業成績が上がっていった
  3. ただし、ゲームから成績への直接の効果は確認されなかった

つまりゲームは、成績を直接上げる魔法ではありません。「考える力」という橋を経由して、成績につながっていたのです。

これは納得感のある結果だと思います。RPGの攻略で身につくのは、英単語でも数学の公式でもありません。身につくのは「わからない問題を前にしたとき、観察して、仮説を立てて、試して、失敗から学ぶ」という姿勢です。その姿勢が勉強に向いたとき、成績という形で表に出てくる。そういうルートです。

④ 大事な注意:この研究の「ゲーム」に、スマホゲームはほぼ含まれていません

ここは、この記事でいちばん強調したいところです。

この論文の出版は2013年ですが、データ収集はそれ以前、2000年代後半から2011年頃です。アメリカの調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、10代のスマートフォン所有率は2011年でわずか23%。つまりこの研究の高校生たちは、ほぼ「スマホゲーム以前」の世代です。

彼らが遊んでいた「ストラテジーゲーム」とは、コンソール(ゲーム機)やパソコンで腰を据えて遊ぶゲームのこと。ガチャやオートプレイ、スタミナ制で設計された基本無料のスマホゲームは、この研究には含まれていません。

そして私は、ここにこそ本質があると考えています。オートプレイは「観察して、考えて、試して、失敗から学ぶ」というループそのものを省略する機能です。考える工程を肩代わりしてくれるゲームでは、考える力は育ちようがありません。「ゲームをさせるなら、どの端末でどんなゲームか」まで見てあげてほしいのです。

⑤ この研究の弱点も、正直に書いておきます

公平のために、弱点にも触れておきます。

  • ゲーム時間・問題解決力・成績は、すべて本人の自己申告です。実際の成績表やテストを見たわけではありません
  • 実験(ゲームを遊ぶグループと遊ばないグループに分けて比べる方法)ではないため、「確実にゲームが原因」とまでは言い切れません

それでも、1,500人規模を4年間追いかけ、ジャンル別に効果の違いまで示した調査はほとんど例がなく、この分野で繰り返し引用される代表的な論文になっています。今回この1本に絞って紹介したのは、それが理由です。

なお、ゲームと子供の脳の関係については、脳画像や知能検査という「自己申告ではない」データを使った研究を以前に紹介しています。あわせて読むと、今回の結果の納得感が増すはずです。

👉 「ゲームをやめなさい」と言う前に読んでほしい。子供の脳で起きていること。

⑥ 論文情報

原題
“More Than Just Fun and Games: The Longitudinal Relationships Between Strategic Video Games, Self-Reported Problem Solving Skills, and Academic Grades”
日本語訳
「ただの遊びではない:ストラテジーゲーム・問題解決スキル・学業成績の長期的な関係」
著者
ポール・アダチ、ティーナ・ウィロビー(ブロック大学・カナダ)
発表
2013年、Journal of Youth and Adolescence

まとめ:取り上げる前に、ジャンルを見てください

お子さんがゲームに夢中で心配なとき、いきなり取り上げる前に、できることが2つあります。

  • 何のゲームで遊んでいるかを見る。RPGやストラテジーなら、その時間は「考える力」の練習になっている可能性があります
  • 「それ、どうやって攻略したの?」と聞いてみる。自分の作戦を言葉で説明することは、それ自体が問題解決力のトレーニングになります。たぶん、嬉しそうに話してくれます

ゲームの中で、子供は何十回も負けて、そのたびに立ち上がって、対策を考えています。失敗を恐れず試行錯誤できる力は、これからの時代をいちばん強く生き抜く力だと、私は思っています。

ゲームを取り上げる前に、ジャンルを見てください。その画面の中で、「考える力」が育っているかもしれません。

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